どうでも良い人生、どうでも良くなかった事の終止符。
* prologue プロローグ
-------------------------
* heavy lie 重イ偽リ
「え、本気だったの?…遊びに決まってるのに、こんな付き合い」
そろそろ、秋が冬へと移る季節だ。
あたしと亮が立つこの裏庭も、ひらひらと舞うのは桜でなく落ち葉。
日が落ちようとしている時刻、辺りは茜色に染まっていた。
何かが終わるのだなんて、とても簡単で残酷だ。
書き連ねた英文を締めるのは、たった一つのちっぽけな点。
終止符と書いてピリオドと読むそれは、いつでも容易く書けてしまう。
あたしも今日、ここで、その点を打つ。
誰のためでもなく、亮のためでもなく、
自分勝手なあたし自身のために。
『よぉ』
最近習慣になってきた、放課後 裏庭で亮と過ごす時間。
つい数分前、亮はやっぱりここにやってきた。
何も、何も知らないで。
『亮…』
『あ?何?』
いつものベンチ、いつもと変わらない空気。
昨日、冷たい風も貴方といたら平気だと、笑い合った場所。
『…別れて欲しいの』
『………え?』
あたしは俯いたまま、それだけを言った。
表情ごと固まった亮をその場に置いて、立ち去る。
…ことは出来なかった。骨ばった貴方の手があたしをしっかりと掴んでいて。
『待てよ、』
『離して!』
振りほどこうとするあたし、亮には到底適わない力。
無理やり抱きすくめられた瞬間、貴方の涙の匂いがした。
ポーカーフェイスなんてお手の物で、普段からほとんど感情を見せない亮。
そんな貴方のそんな表情は、あたしの決意と偽りを崩そうとする。
見ていたくなくて、見られたくなくて、顔を出来る限り逸らした。
『…なんでだよ…』
『………』
『…が、好きなんだよ…!』
『………』
『なぁ…』
そんなこと、言われなくたって、知ってる。
あたしを切り裂くように、風が首筋を凍えさせた。
ヒューヒューと舞う切なげな音。
これは風からの慰め?それとも、怒り?
「え、本気だったの?…遊びに決まってるのに、こんな付き合い」
亮は、あたしを解いて振り向き、静かに立ち去った。
ザッザッと響くサッカーシューズの音。
貴方が無言なのは、労わりか戒めか、気遣いか、せめてもの復讐か。
もう好きでいてくれなくていい。恨んでくれた方が、あたしが楽だから。
「ごめん………」
その場にひとり残されたあたしは、ぽつりと一粒、涙を落とす。
すぐに拭わなければいけない。あたしに泣く権利なんて、あるわけがない。
ヒュルル...と強度を増した風が、落ち葉と一緒に眼の水分を攫っていってくれた。
「バイバイ。…大好きだったよ、亮」
人気のない校舎が言葉を飲み込んでいく。
そろそろ、日が暮れる。空はずいぶん黒味を帯びてきた。
あたしはこうして、嘘を重ねていくんだ。
あたしと亮が、分かっていること。
それは、昨日までの日々は幸せだったということ。
それは、昨日までの日々は愛し合えていたということ。
あたし一人が、分かっていること。
それは、昨日までの日々に偽りはないということ。
それは、
今もまだ、二人は愛し合っているということ。
好き。
大好き。
愛してるって言っても、過言じゃないくらい。
愛してるって言っても、そんなのじゃ足りないくらい。
亮が今も、好きよ…
あたしはもう一度あのベンチへと座り、
毎日の亮の匂いが微かに残るベンチに、そっと口付けた。
精一杯の思いも想いも込めて。
「これで、終わりね………さよなら」
二人過ごした日々は、もう遠くへと逃げてしまった。
記憶の中でちろちろと燻るだけの想い出へと風化する。
こんなに切なくて…苦しくて…悲しくて…
これも、今だけ。すぐに忘れられる。忘れられる。
愛なんて、脆く儚いものだから。いつかは消え去るものだから。
そうでしょ?亮。
そうだよね、亮。
カサカサと音を立てる落ち葉のか細い音を頼りに
暗くなった裏庭を、亮とは反対方向へ帰る。
終止符に後悔はないと自分に言い聞かせて、
落ち葉と一緒に気持ちも踏み締めながら。
哀しい愛しい貴方との想い出に、さよなら。
-------------------------
back * close * next