どんなに頑張っても


貴方の瞳には写れないの











「柾輝、帰るよ」


飛葉中サッカー部の部室。

そういう翼の声に、へーへー従う柾輝。


「じゃ、お疲れ様。

「うん、バイバイ、翼」

「じゃな」

「うん、バイバイ、柾輝」


パタン、

切ない音を立ててドアが閉まった。


データをファイルしながら、深いため息をつく。


…こんな事になるなら、マネージャーなんて止めとけば良かった。

確かに、サッカーは好きだし。

やっと部活に成り立ったサッカー部の、力になりたいと思った。


だけど。


ポタッ、


気が付いたら、ノートに薄い染み。

慌ててジャージの袖で拭う。


何で、泣いてるんだろう。

こんなに、毎日。


そう、力になれればと思ったけど。


今の私には、この環境がつらすぎた。






柾輝の事が、好き。




中1の夏からずっとずっと好きなのに。




どうして、私の事は見てくれないの?






「いかんなー…こんな毎日女の子泣かせおって」

「直樹先輩…」

「直樹でええって。どんだけ鈍いんやろな、アイツ…」

「いいんです、柾輝が、幸せなら」





嘘。



本当は、私そんな良い女じゃない。



悔しくて、切なくて、寂しくて、…憎くて。



仕方無いのに。





「見るからにお似合いですもん。翼と柾輝は」





転校してきて、柾輝の目も気持ちも奪ってしまった。



サッカー部に、必要不可欠な存在。



居ないと柾輝はどうなるか分からないから、居て欲しくて。



居なかったら柾輝の目が私に向く可能性があったから居なくなって欲しくて。



そんな存在だった。翼は。



憧れて、尊敬もしていて。



それでも痛いくらい羨ましくて、憎かった。






そんな気持ちを悟られないように、ニコっと笑ってみせる。




なのに。



私は、上手く笑えなくなってたみたいだ。





ちゃん…」

「ごめ…なさ…」

「無理は、あかんで」

「……はい…」





直樹先輩の胸を借りて、泣いてしまった。

温かくて、温かくて。

先輩の優しさが嬉しすぎるのに。




私は、酷い人間だ。



柾輝だったら良かったと、思ってしまった。






苦しいよ、柾輝。

大好きなのに…



貴方には届かないから。





「ありがと…ございます」

「俺で良かったらいつでも聞くさかい」

「本当に…ありがと…」

「ええって。また明日な」


家まで、付いて来てくれた直樹先輩。

いつもはふざけてる印象なのに、サッカーの時と同じくらい真剣な目をしてくれた。

すごく、頼もしく見えて。


「じゃ…ありがとうございました」


私は、絶対この人に頼ってしまうと思った。

だけど、そうするしか、無かった。


哀しそうな笑顔で手を振る先輩を後にして。





「…俺やったら、絶対そんな顔させへんのに…





先輩がそんな事を呟いていたなんて、

夢にも知らなかった。






「…やっぱり、告白した方がいいですかね」


夕方のサッカー部部室が、私と直樹先輩の習慣と化していた。

いつも、自分の事の様に真剣に考えてくれる先輩。


その優しさに、甘えずにいられなかった。


「そうやな…ちゃんが、それでいいなら」

「やっぱり…区切りつけたいんです。今なら…出来る気がして」

「そか。…なら」

「本当に、ありがとうございました」

「ええって。頑張ってな」

「はい」





受けてもらえない事は、分かってるから。





せめて、この気持ち、どこかに置いてくれないかな。




柾輝の、心の隅の隅でいいから。






「柾輝、帰るよ」

「わり、翼。ちょっと先帰ってて」


明らかに不機嫌そうな顔をする翼。

今日が、柾輝が翼より私を選ぶ最初で最後の日。

翼、一日だけ、旦那様を貸してください。


「何で?」

「ちょっと何か…が相談あるって」



本当はね、告白したいからって、言ったの。


自分が辛くなる事もわかり切った上で、聞いてくれる柾輝。


それを翼には言わずに、私の事もちゃんと考えてくれる柾輝。


普段は無愛想で、一見すごく怖そうだけど。


そこに隠れた優しさを、知ってるの。


この人が、好きで好きで仕方ない。




「そう。なら、しょうがないか。直樹、帰るよ」

「俺は柾輝のかわりかい」

「かわりになれるとでも思ってんの?」

「うわ、酷いやん翼ー」



そういいながら、チラッとこっちを見て目で伝えてくれる直樹先輩。


 が ん ば れ 


そのメッセージが、嬉しかった。







静かになった部室。


「改めてだけど…あのね柾輝」

「…おう」

「…好き、です」

「…ん」


照れる間もなく、想いは零れ出てきた。

自分でもびっくりするくらい、素直に。


「ずっと…好きで。苦しいくらい…好きで。だから、翼と柾輝見てるのが…辛すぎて」

「………」

「無愛想なくせに実は優しいとことか…一途で自分を持ってるとことか」

「………」

「翼にしか見せない、柔らかい笑顔とか…っ…全部、全部、大好き…」

「………」




言葉になんか、表せない。


ただ、苦しくて。


胸の奥が死にそうなくらい熱くて。


痛すぎる想いを、捨てられればいいのに。




「ごめ…泣いたり…して」




ねえ、柾輝。


私、どうしたらいいんだろうね?




「……悪かった」



首を振る事しか、出来ない。



「気付けなくて…わり…」



何も、出来ない自分。



「…俺は…でもやっぱ…」

「分かってる」

「………悪い」

「幸せにならなかったら、怒るからね」

「……おう」






心の底から、柾輝達の幸せを思える程、出来た人間じゃないけど。





やっぱり、幸せになってほしい。






「すっきり、しました」

「良かったな…って、良くないんやけどな…」


次の日の帰り道、河川敷の原っぱに座って、直樹先輩に報告した。

久しぶりに、笑えた気がする。

まだ、引きつってる気もするけど。

少しずつ、戻れるよね。


「直樹先輩の、お陰です」

「俺何もしとらんやん。ちゃんが頑張ったんやで」

「ホントに、ありがとうございました…」


川に石を滑らしたら、向こう岸まで着いた。






「あ、それとな…」

「?」

ちゃんの事想っとる奴、案外近くにおるかもしれんで」

「………え?」


今日も、サッカーボールの音がする。










3030HITリク、柾輝シリアスです。
シリアス…ですか?(聞くな)

直樹と迷ったと聞いたので、でしゃばらせてみました。
管理人の中で直樹は、こんなキャラです…多分。

柾輝夢なのに、直樹の出番の方が多いんじゃ…?
いやいや、気のせいですよ(汗)

柾翼も、何気に堂々と(意味不明)主張。
翼には俺様であってほしいんです…

ホントは3話分くらいに書きたいのを1話にまとめたので、
色々と変な所がありますけど…お許しを。

椎葉姫々様のみ、煮るなり焼くなりお好きにしてやってくださいまし。

長々とすいませんでした。
最後の直樹の言葉がくさすぎる(しかもありがち)、と言っておいて逃げます。


(c)愛渚 雛古 2004.04.03