ねえ、三上。


あたしはアンタを、


信じきれてなかったみたい。




ごめんね、


臆病なあたしで。























「なあ、。お前、俺と付き合って見る気ねえ?」



一見軽そうに見える、そんな言葉を貰ったのは、

ちょうど一年前のあの日だった。



中学3年生のあたしは、

確かにサッカー部司令塔、三上亮に憧れていたのだけれど。



「…ごめんね、あたし好きな人居るから」



そうとだけ、答えた。

その好きな人は貴方です、だなんて口が裂けても言えないまま。



弱かった、あの頃からあたしは。

…もしかしたら今の方が弱いのかもしれないけれど。

とにかく、どうしようもないくらい弱かった。



「…そうか、」



悲しそうな表情を一瞬だけ見せて俯いた貴方は、

見逃してあげる事にした。



ねえ、三上。

本当は好きだけど何て言ってしまったら、

貴方はあの時どんな顔をしていただろう。










「ねえねえ、。今日の朝、三上君が…」



あたしが断った理由のひとつは、

親友の、

確かもう、すでに1年間以上三上を好きだった。



何の変哲もない笑顔を向けてくるこの子に、

まさかその本人に告白された(本気かは知らないけれど)なんて、

これもまた、口が裂けても言えなかった。



それから、その三上君に、あたしも想いをそっと寄せている事も。



「そう、良かったじゃない、

「でしょ?もうホントにさ、緊張しちゃって顔真っ赤だった絶対!」



ニコニコと、

腹の内なんて見られないようにしっかりと笑う。



あの頃ガラス玉のように張り詰めていたあたしの心は、

もう今にもはじけてしまいそうだった。



人に嫌われるのが、

人と関わるのが、

とても、

とても恐くて。



自分の想いをさらけ出すことなんてほとんど無かった。

親友の、にも。

大好きな、三上にも。



表面上だけの付き合いじゃないか、なんて言われてしまったら

それでお終いだったけれど。



心を出して嫌われてしまうくらいなら、

上辺だけの繋がりでも良かった。










そう、思っていた、ずっと。



それを、壊したのは。



まさしく三上だった。








告白から2、3日経った日の、

放課後の部活の時間だったそれは。



いやでも三上と顔を合わせなきゃいけないけれど。

しっかりと笑顔でドリンクを作っていた。



なのに。




「なあ、お前どうしてそんなに悲しそうに笑うんだよ」



突然、

水道にやってきた三上に声を掛けられた。



「もしかして、こないだの事気にしてたりするか?」



……………



「それだったら、もう気にしないでいいからさ…」



……………違う。



「な、笑えよ、前みたいに」



……………ねえ、



お願いだから、

心に留まるような言葉を言わないでよ。






あたしが断った理由のもうひとつは、

そのとき三上にはすごく色々な噂が流れていたからだった。



最高記録は十股だとか、

中3にしてもう20人の女を抱いただとか、

今も三股かけてるだとか、



とにかく、凄かった。

きっと女子の妄想や男子の妬みも入り混じってたんだろうけれど。



だから、軽い男だと半ば諦めていたんだ。

あたしなんか、遊びなんだと。



……………本当は、

ちゃんとした男の人だって気付いていた。






ねえ、三上。

もっと早くから、貴方自身を見てあげればよかったね。

あの時から今まで、あたしは凄く脆かったから。



ごめんね、

三上。






「な?」



心配そうに、覗きこんで見せるだなんて、

反則だとしか言い様が無かった。



部活の、最中。

マネージャーをやっているあたしの仕事の、最中。

今、ボールを蹴っている皆と一緒に、

働いていかなくちゃ行けない存在なのに。



「………三上、」

「あ?」

「………本当は、好きだよ…アンタの事、」



だけどあたしを想ってくれるなら付き合わないで、

そんなことを言えるほど優しい人間でも酷い人間でもなくて、



「……そう、か」



じゃあ何でこの間、とか

何にも、何にも問いたださずに



そっと、水道場の陰に隠れてキスをした。









いつもいつも俺様で偉そうで、

自分勝手としかいいようが無いような男で、

どうやっても軽そうに喋って、そんな素振りも見せる。



だけど、

本当はものすごく優しくて、

本当はものすごく繊細で、

本当はものすごく一途な事を、

ちゃんと知っていた。




はずなのにね。






どうして、

あたしは。











「ねえ、と寝たんだって?」










信じきれていなかったんだ。








大好き、なのに。









「………………」








否定も何もしなくて、

否定の反対は肯定じゃないかもしれないのに、

あたしには、そうは思えなかった。






これは、

この付き合いはに対する裏切りだったから、

少なくともあたしはそう思ったから、



やましいことだとそう感じたわけじゃないけど、

公にはしないことにした。




サッカー部の皆は知っていたけど、

誰もが協力してくれて、

学校の中では今日も三上の噂が飛び交っていた。



ちょうど、始まりのキスから、

1年が経とうとしていた。









「昨日、三上君と寝ちゃった」







そう頬を染めて言う親友に、

ただただ、絶句するしかなかった。



この1年間ずっとずっと、

のする三上の話も笑顔で聞いてきた。



少し嫉妬する感情も、

自分の所為だとしっかり割り切って笑顔を作っていた。



それでも、

今回だけは、

気の利いた言葉なんて浮かんでこなくて、



ただ、三上の居場所へと走った。

1時間目。

屋上に居るからサボりに来いよと言われていた時間。




「おー、来たか

「…三上」



座れ、と

さりげなく隣を空けてくれる三上なんて丸きり無視して。



「ねえ、と寝たんだって?」



心無しに涙を流しながら、

そう叫んでいた。








「……………」

「………三上」



「んだよそれ、何所で…」

「良いから答えてよ」



もう、何もかもがぐちゃぐちゃで、

屋上からの曇り空は今の気分にぴったりだった。



「寝てねえよ…」

「…嘘つき」

「ああ?」

「何で?ねえ…」




信じてたのに。




それだけを、呟いて。





あたしは屋上からの階段を駆け下りた。












あれから、一週間も喋ってない。

三上はもう、あたしの事を忘れただろうか?

が、次の彼女になったんだろうか?



学校になんか行けなくて、

ただただ、馬鹿みたいに泣き続けた。



一週間。

たったそれだけの期間だけれど。



毎日のように電話していたあたしたちには、

致命的な日数だと思った。





プルルルルルルルルルル…





「はい、もしもし」



すっかり枯れ果てて鼻声になってしまった声で電話に出る。



『あ、もしもし?さんのお宅ですか?ですけど、ちゃん…』

、だけど」

『あ、?』



電話は、

少しだけ諦めながらも期待していた三上じゃなくて、

から、だった。



、ごめん…!』

「え?」



開いた口が塞がらない、なんて。

ぴったりの表現だと思った。

昔の日本人って、

かなり頭が良かったんだねきっと。







『私、嘘、ついて…三上君とは、何の関係も無いの』






『どうしても、欲しかったから言葉だけでも上辺だけでもって…

 そうしたら昨日、三上君が来て』



全部、聞いた。



その言葉で、

全身にかかっていた圧力が抜けて行く感覚に落ちた。




『ごめんね、…私、自分のことばっかりで…』

「ううん、ごめんね、…ごめ…」

は、謝らなくていいよ』




ねえ、三上。

が怒るわけ無かったよ。

最高の友達で、親友だったのに。


どうして誰も信じられなかったんだろうねあたしは。







『ちゃんと、三上君と話してね』




そう、は言ったけれど。



三上を信じられなかったあたしが、

もう彼女なんて絆は持っちゃいけないよ。









「三上」

「…



お別れを、言いに来た。



その言葉に勝気な男の顔が代わった。



あたしの為に、そんな顔しないで。

最初から最期まで自分勝手でしかない女なのに。




「あたしには、もう三上の隣に居る権利なんてないよ…」




必死に、

涙を堪えながら、

全てをはなす。



ごめんね、信じてたのになんて吐いて。

信じられてなかったから、

こんなことになったのに。



あたしが最初から皆を信じていたら、

何も何もそのままだったのに。



そういったら、三上は、

頭をくしゃっと掻いた。



「…なあ、何で権利とかそんなのにこだわるわけ?」

「だって…」

「俺は、がどんな女だろうが、隣に居て欲しいんだけどよ」



あーもう、と、

かなり俯き気味にそう言った。



「……………」

「それじゃあ、理由にならねえの?」

「………だけど」



それじゃあ、あたし…



そう言いかけたら、

突然後ろから抱きすくめられて体が硬直した。



「ねえ三上、痛…」

「うるせえよ」



心も体も痛い、

だけど。



本当はこの温もりが恋しくてしょうがなかった。



「俺が居ろって言ってんだから、言う事聞けよ」



三上らしいそんな言葉に、



もう、

もう、

それ以外何にも要らないからと

そう思ってしまった。



「………ありがとう」

「おー」



涙が頬を伝う。



ねえ、三上。

始まりはこれからだと思ってもいいかな。



今度こそは貴方も皆も信じきれる自信がついたから。












5115HITを踏んでくださった七夏様へ捧げます。
遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした…!

あたしの理想の三上、とリクして下さったのですが、
どんな感じにしようかものすごく迷いました…

七夏様が切ない感じのものが好きだとおっしゃっていたのも含めて、
最終的にこんな感じになってしまったのですがどうでしょうか(汗)

七夏様のみ、煮るも焼くもお好きにしてくださって結構であります。

では、失礼致しました(逃)


(c)愛渚 雛古 2005.05.23