何度も


何度でも




















「藤代先輩!」



声に振り向くと、前にも見かけたことのある女の子が、

誠二の前に立っていた。


たしか、一年生の後輩。

火照りながらうつむく、その表情が語ることは、ひとつ。


ああ、またか。



「…好き、です……」



何度聞いたか知れない。

こんな風に、誠二の隣で。


部室の中、教室の廊下、

運動場、体育館裏、屋上。


今日みたいに、寮の入り口でも、度々。



「ごめんね、俺…」



こんな風に悲しく笑う誠二を、見たくないのに。


ねえお願い、これ以上、この人を傷つけないで。


そんな風に言える権利を、あたしは持っていない。



「好きな奴がいるから」

「…っ……」

「ごめんね」


「でも、もう、先輩は…!」

「っ…ごめんね」



一番、誠二を傷つけていて

一番、誠二を苦しめているのは


あたしなんだから。



先輩は、居ないんですよ…っ、だから…」

「ごめんってば…!」



人を想う切なさも全部、知っているから。

知っているから。

誠二は、優しいから。



先輩はもう、死…」

「言うなって!」



君の笑顔をもう一度、この世界に降らせたいのに。



「…ごめんなさい」



そんな、悲しそうな笑顔じゃなくて。



「離れても、どこに居ても、俺はが好きだから。は俺の彼女だから…!」



そんな、悲しそうな笑顔じゃなくて。



笑って、

笑ってよ、


…誠二。













藤代誠二とは、幼馴染だった。


母親のお腹の中にいるときから、ずっと一緒に育って、

さきにあたしが産まれたけど、すぐに誠二も後を追ってこの世界にきた。


女のくせに変な奴!

そう言われながらも、ずっと一緒にサッカーをやって。


俺、武蔵森に行くんだ、

小学校卒業間際に聞いた言葉で、必死に勉強してあたしも武蔵森に入った。



ずっと一緒だったから、

惹かれあって当然だった。



それでも、あたしたちはとことんマイペースで、

将来のパートナーは君しかいないんだろう、と思いつつも

付き合いもしずに、手を繋いだのも幼稚園までで、


なんとなく、隣にいた。

その時間が心地よかったから。



!』

『何よ誠二』

『数学のここ、教えてよ』

『…ちょっとは自分で考えなさいよ』



いつもいつも、

眩しすぎない、暑すぎない、

あったかい柔らかい太陽のような、


誠二の笑顔がだいすきだった。



この時間は、おじいちゃんとおばあちゃんになっても、

ずっと続く。



ほとんど確信していた。


君の隣に居れるんだと、そう。






『原因が今の医学では分かりません…』

『え?』

『もって、あと一週間でしょう。残念ですが…』



ただ、ほんの少し、立ち眩んだだけだと思っていたのに。


医者のその言葉で、あたしの生活は全部全部、

音を立てて壊れていった。




高熱が出る、

体中に痣が出来る、

嘔吐感でいっぱいになって、涙腺が緩んで、髪の毛が抜ける。



母親は、部屋のすみで泣いた。


誠二はまだ、笑っていた。



『大丈夫、俺がずっと、そばに居るから』

『だめだよ…だめだよ、死んじゃうんだよ、あたし…っ』

『大丈夫だって。ね?』

『……っ…』



柔らかい日差しが、あたしを包んでくれた。

何年ぶりかに、その手をそっと握って。



が、好き』

『誠二…』



病院のベッドの硬さなんて、気にならなかった。

学校も部活も全部休んで、誠二がそばに居てくれたから。

監督も先生も、このときばかりは文句を言わなかったらしい。



10日。



それだけでも、奇跡だと、医者に言われた。



『誠二のこと、だいすき…』

『うん』



もう、人生が眠たくなってきたときに、

君の涙をひとつぶだけ見た。



と、もっとずっと、一緒に居たかった…っ』

『…誠二…』

『恋人になって、結婚して、子供産んで、幸せな家族で、それで…っ』

『………っ』

『ずっと、ずっと、ずっと大好き』



もう薄れた意識にくっついた誠二も、

いつものように笑っていた。


最後まで、最後まで笑顔をくれた。



『ありがとう…』



無機質な機会音が、病室に響いて、


その瞬間から誠二は、笑顔を失ってしまった。



あたしの、せいで。










、俺、ひとりでもずっと、生きていくからさ」



あたしの命日からぴったり一ヶ月、誠二がお墓にやってきた。

そっと、微かに、君は笑ったけれど。



「会いたい…会いたいよ、

『誠二』

「…え?」








誠二のことがとても心配で、

神様に許してもらって、こっちの世界に下りてきたんだ。


一ヶ月だけ。もう、タイムリミットで。

最後の5分だけ喋ってもいいんだと、

神様は微笑んで言ってくれた。


君は悪くないから、

残してきた恋人に、

優しくお説教してきなさい、と。







『誠二、聞こえる?』

「え…うん、だよね?聞こえる…っ」

『一ヶ月間、ずっと、誠二のとなりに居たの』

「…え?」



きっと、雲の上からの言葉だと思っているんだろう。

空を見上げている誠二に、

姿が見えないあたしは、ここだよ、と抱きしめたい衝動を抑える。



『幸せになってほしいの』

「…!……だけど」

『誠二の笑顔が好きだから、笑っていてほしいの…!』

「……」



本当は、本当は。


もっと生きて、君と抱き合いたかった。

キスだってしたかった。


幸せに、なりたかった。



『隣にいたかった。だけど、もう無理なの…いくら願っても、は帰ってこれない』

「…

『ねえ、お願い。あたしに向けた笑顔じゃなくてもいいから…っ』



笑ってよ。


幸せに、なって…?



「……嫌だ」

『!?』



どうしてあたしがここに居ると分かったのか。

それともただの偶然なのか、


誠二はしっかりとあたしの目を見据える。



以外を好きになるのも、以外の子を幸せにするのも、嫌だ」

『…っ』






どうして、分かったの?






本当は、本当は、本当は、

そんなにイイコじゃないあたしは、


あなたの笑顔が見たい以上に、

あたし以外の子と恋をする誠二は、見たくなかった。


本当は、本当は、本当は、

誠二が笑いかけるのは、あたしじゃないと嫌だった。





どうして、こんなにも、



あたしとあなたは恋をしたんだろう。





「生まれ変わってきてよ」

『え…?』

「生まれ変わってきて、もう一回」

『でも…そうしたら、記憶が…』

が俺を覚えてなくたって、俺が全部覚えてる」





「生まれ変わってきてよ」





風が、通り抜ける。





「愛してるんだ」

















15年の時が、流れた。













某高等学校、通学路。


「ねえ君、名前は?」

「…はい?」

「いいから名前、教えてよ」

「…おじさん、誰よ。あたし援交する気ないんだけど」

「…ちょっと酷くない?」



ねえ、変わってないよ。

その強気な性格。



「ちょっと、このひとJリーガーの藤代誠二じゃない!?」

「…藤代、誠二…?」

「ふーん、ちゃんって言うんだ」

「Jリーガーがあたしに、何の用?」



いつの時代だって、君は君なんだ。

今日まで俺は、約束を守ってきたよ?



「結婚しよう」

「はい…!?」



大丈夫、もうすぐ君は絶対、

俺を好きになるからさ。



「…おじさん、柔らかく笑いますね…」

「え?」

「なんだか、暑すぎない太陽みたいに」

「……ね、おじさんはやめよう。誠二って呼んでよ」


「…誠二ってロリコンなの?」

「はい?」

「何歳?」

「…29…」

「ロリコンだ」

「違う!」

「ロリコン!」


違うよ、俺は、




ずっと、君だけが好きなだけ。










いきなり書きたい衝動がやってきて、そのまま描き終わりました。
うん、こんな誠二もあり。…ってことで(弱気)

なんか無駄に長いですけど、ごめんなさい。
うん、次はリクの方書きます。


(c)愛渚 雛古 2005.11.12