いつのまにか、当たり前になってた。
それがどんな幸せなのかに気付かないで

もう冬はとっくに過ぎたっていうのに、
僕の手は冷たく染め上がっていた。
『…もう、いらない』
涙目でそう呟いたのは、ついさっきまで。
この手を温かく包んでくれていた子だった。
自分の落ち度なのに素直じゃない僕はそれを認める事が出来ずに
ただ、不本意な涙を目から零している。
「ごめん…………」
いつのまにか隣で笑っている君が
当たり前かのように錯覚していたから。
隣の席になった時、
ミーハーな女とはそっくり違って綺麗な笑顔を見せてくれた。
サッカーの試合を見に来てくれた時、
負けた僕達に自分の事のように涙を流してくれた。
ほら、必死に応援する君の声が今もまだ耳に残ってる。
素直じゃない僕が決死の覚悟で想いを伝えた時、
出逢った時と同じ笑顔でそういってくれた。あたしでいいなら、と。
部活の練習が山積みでデートにもいけなかった時、
翼の夢なんでしょ?ってはにかみながら許してくれた。
もう、僕は想いでだけで生きていかなきゃいけないんだろうか。
当然の、報いだ。
自分の目線からしか、を見ていなかったから。
あの事は遊びのつもりでいて、軽い興味本位の気持ちだったんだ。
『一回、ヤってみる気ない?翼クン』
に、そう誘われた時。
まだ、を抱いた事が無かった時。
僕は周りを見渡す事が出来なかった。
『……は………』
好きでもない男の腕の中で女の声を上げる、トモダチ。
だったら良かった、少し後悔したけれど。
人間の雄としての本能は、留まることを知らなくて。
抱いている女をだと勘違いしながら、ただ僕は果たした。
後から知った事実だけど、は僕の事が好きだったらしい。
例え、気持ちは入っていなくても抱いていて欲しかった、そう言っていた。
にも、悪い事をした、だけど。
もう人間として最低に落ちぶれた僕の瞳にはの泣き顔しか写っていなかった。
『翼の…馬鹿…』
噂の広まりなんて僕達の年の中じゃ音速並に早いものだった。
当然、僕が犯した禁忌は彼女の耳にも届いていく。
『あたしの事は…遊び、だったんだ…』
『違……』
そうじゃない。
そんなわけがない。
今更後悔しても遅いことは嫌でも分かっているくせに
僕の頭には後と悔の二文字しかなくて。
否定する、いつもなら過敏に動く口が、
今は喋る術を忘れていた。
『翼は…モテるもんね。何股かけてたの?5人くらい?』
『………』
『だから、部活なんて言って遊びにも連れていってくれなかったんだ…』
泣くなよ、なんてそんな言葉を吐ける資格があるわけがなかった。
今までは一筋だった、ううん今もそうだ。嘘じゃない。
遊びに行きたくて仕方無い欲望をも抑え、やっぱり自分の夢の為には戦った、それも嘘じゃない。
を、愛している。それだって嘘なわけがない。それなのに。
たった一つの偽りが、僕の誠意を全て剥ぎ取っていた。
信用なんて、してもらえるわけが無い。
『…』
抱きしめる権利なんて、何処にもないのに。
ただ、掻き抱いていたくて。
いつも繋いで歩いたその手が、パチン、と音を立てて弾かれた。
『もう…いらない…』
溢れんばかりの涙を溜めて、
それでも確かに彼女はそう呟いた。
走り去って行くその手を掴み取る勇気も、
その背中を追いかけて行く資格も、
僕にはもう、何も残っていなかった。
謝罪も後悔ももう今となっては無意味なものなのに。
ただ、涙を流しながら馬鹿みたいに言葉を並べていた。
聞いてくれる君は、もう隣には居ない。
嗚呼、春になりかけた風が、
空っぽの手の中をすり抜けて行く。
とてつもなく冷たい、独りぼっちの手のひら。

4455HITキリリク、翼さんで悲恋です。
ヒロインちゃんがあんまり出ていないですけど…翼偽似ですけれど…
こんなもので宜しければ椎葉様のみどうぞお持ち帰りください。
素敵なリクをありがとうございました。
では(逃)
(c)愛渚 雛古 2005.04.27