いつもいつも気取り屋で恥を恐れて、
心は器用じゃないあなたからの最大の贈り物

『…夏祭り…行かないか?』
そんな誘いを水野から受けたのはつい一昨日のこと。
付き合って2ヶ月、今まであたしからしか誘ったことのなかったデート。
そろそろ夏祭りもあたしから言うべきかと思っていた矢先に、
水野からの電話が入った。
『もちろん。部活無いの?』
『ああ、明後日は午前だけだから』
ふーん、と微妙にこわばった水野の声を聞き流し、
あたしの家の電話番号を押し終えるまでに、一体どのくらいの時間をかけたんだろう?
と考えて、思わずクスクスと笑ってしまった。
『どうした…?』
『ううん、何でもない』
水野の無器用さはあたしが一番知っているはずだったし、それもひっくるめて大好きだったから
リードするのもちっとも苦じゃなかった、それなりに楽しかった。
けれどやっぱり、彼氏からのお誘いとなると
ニヤけてしまう顔を堪えきれないほど嬉しいものだ。
『じゃあ、5時ごろ神社の前で』
『あっ、ちょっと待って水野。浴衣着用、ね』
ウキウキした声色を隠そうともしずにそう言うと、
電話ごしに水野の長い眉毛が微妙にひそまったのが分かった。
『…浴衣?』
『うん、夏祭りなんだから。水野の浴衣姿なんて見たら、取り巻きの女の子は飛び付くわよ』
『…それは、嬉しくないんだけど…』
『あはは、冗談だって。あたしが見たいだけ』
あながち冗談でも無い気がしたけれど、まあそんなことは気にしずにそういう。
あの子達が水野を好きなのは勝手、水野が好きなのはあたし、それで十分。
もう随分前に割り切ってしまった事を、今更ぶり返す必要も理由もない。
『…は?』
『あたし?』
『…浴衣』
『ああ、もちろん着るから、楽しみにしてて』
クスッともう一度笑んで、今度は冗談混じりに言ってみるのだけど、
水野は本気にしてくれたらしい。
『そうするよ、じゃあ』
そこで電話は切れて、
あたしは慌てて箪笥の奥底にしまわれていた浴衣を引っ張り出し、
織り皺を伸ばせるよう高い場所に吊りさげた。
「おまたせ…!」
「5時ピッタリだけどな」
案の定当日、
水野はやっぱりいつものように先に来て待っていた。
いつも、誘ったあたしが時間ピッタリに行っても
既に水野はそこで待っている。
まるで、彼氏が待つのは当然だろ?とでも言うように居て、
あたしは水野のそんなところも好きだった。
「…それじゃあ、行くか?」
「そうしよっか」
「まだ花火までは時間もあるのに、屋台は出てて人も結構居た」
「あれ、見てきたの?」
「ああ、少し早く着いたからな」
水野があたしの為に、あたしだけの為に
『少し』の時間を過ごしていてくれたのだと思ったら、
やっぱり嬉しくなってつい頬が緩んでしまう。
ほかの人にとったらこんなに些細でどうでもいいことは無いのかもしれない、
それでもあたしにとっては、その何でもないひとつひとつが
水野と一緒にいると幸せでならなかった。
「……手」
そっぽを向きつつも、リードしてくれようと手を差し出す水野。
そのふいうちの出来事に思わず自分の顔が赤らんでしまったのが分かる。
「うん」
そっと手を握ると涼しくて心地よい体温が掌ごしに伝わった。
このままの時間が、永遠に続いたらどんなにか幸せだろう?
「浴衣、カッコいい」
「…も、可愛いからな」
たった一言にでも水野の想いが嬉しすぎて、繋げた手をもう一度握った。
「何か食べる?」
屋台通りの人混みをかきわけながら進むうち、自然とそんな話になる。
「うーん…カキ氷とか?」
「分かった」
そう言ってもう一度あたしの手がギュッと握り直され、
満員電車以上の人だかりを必死にすり抜けていった。
守られている…
なんだかそんな実感が沸いて、また少し自分の頬が染まったのが分かり、
照れ隠しに一歩後ろに下がると予想以上に広くて『オトコノコ』な水野の背中があった。
「…疲れた、な」
「うんかなり…」
やっとの思いで通勤ラッシュならぬ、お祭りラッシュを乗り越え
花火は見易いのよ、と、とシゲちゃんが教えてくれた、裏通りの穴場に移動した。
あたしは、あはは、と渇いた笑いを溢しつつ、
水野が買ってくれたカキ氷(300円を渡そうとしたのに受け取ってもらえなかった)を頬張って喉を潤す。
いちごの甘い香りが鼻をついて、あたしと水野を優しく包んだ。
「…食べない?」
「いや、いいよ」
あれ、そう?ともう一度笑んで、
あたしはまたストローのスプーンを口に運ぶ。
パラパラと人はいるものの、
本当に穴場らしい穴場のここでは
のんびりと幸せのいちご味を噛み締めることができた。
「…あ、上がったね」
ドンッと威勢のいい音が聞え振り仰ぐと、
真夏の夜空にきらびやかな花が咲いていった。
「綺麗…」
次々と消えていく儚い一瞬の夢を見つめ、意思も関係なく単語が漏れる。
水野もまた、空の一ヶ所を目に反射させていた。
「…水野と見れて、すごく嬉しい」
素直なまでに言葉にのせると、
一瞬びっくりしたようにあたしを見つめ、
俺も、とすぐに言ってくれた。
「…」
「何?」
食べ終わったカキ氷の容器がごみ箱に入れられると、
今度はどちらともなく手を繋いでいた。
そんな重なりあった掌を見つめながら、ささやくように水野が言う。
「…俺、素直じゃないから、あんまり伝わってないかもしれないけど…」
どこまでも無器用な水野。
あたしとの視線を交えることなくそのまま呟く。
ただそれでも、あたしの心はしっかり水野に交わっていた。
「…好き、だ」
「水野…?」
ドーン、とハート型の花火がいくつも打ち上げられた。
「 」
言葉としては届かないほど、細くて儚い、まるで一瞬の花火のような想い。
それでも水野が何を言っていたか、
ちゃんとあたしには分かった。
「…あたしも」
皆の目線は次々と空へ。
咲いては消える星の花の下で、甘ったるい
いちご味のキスをした。
無器用で気取り屋でいつだって愛しくて。
そんなあなたと、無器用な恋の花を咲かせましょう。
夏の夜空にうち上がる、切なくも煌めいた華のように。
愛 し て る ん だ 。

…水野の甘い夢…のはず。
主要キャラなのに今だに掴めない水野(…)
へたれでも掴むとこつかんでそうだなーと、愛渚の妄想(!)により出来上がりました。
一応黒羽さまにいただいた素敵夢のお返し…なのです。
ああ、お返せてないorz
黒羽さまのみ煮るも焼くも炒めるも焦がすもお好きにどうぞです…
もちろんゴミ箱行き推薦ですが。
では、失礼いたしましたー(逃)
(c)愛渚 雛古 2005.08.14(08.19.up)