君がそんなに笑うから
少しだけ 意地悪したくなった

『勝った!!』
受話器を取ったら、一番にそんな声が漏れてきた。
いや、漏れるなんて可愛いものじゃなく、歓喜のでかい声。
彼、藤代誠二は試合終了直後だと思われる時間に、電話を掛けてきた。
「おめでとう。今年も優勝か」
『うん!』
「ごめんね、今日見にいけなくて」
『別に悪くないじゃん、謝らないでよ』
「うん、まぁ…あ、あのさ誠二」
『あ、監督が呼んでる!ごめん、また後で!』
「…分かっ」
ガチャ。
「た。バイバイ………はぁ」
“た”より後はとても虚しく一人の空間に飲み込まれた。
忙しい人だ。
いつもはかかさず見に行く試合なのに、
決勝なんていうオイシイところで風邪を引いた。バカなあたし。
誠二は笑って許してくれたし、こうやって電話も掛けてくれるけど。
自分が自分で、いやだった。ウィルスなんかに犯されやがって。
「おめでとう、武蔵森サッカー部」
受話器を抱えたまま、ひとりぽつりと呟く。
我ながら、とてつもなく虚しい。
ベッドに寝たきりだった一日で、白い天井はもう見飽きた。
それでも起き上がろうとすると頭痛が襲うので、やっぱり寝たまま。
精一杯、恨みがましい目で天井を睨みつけてやった。
「バカ」
孤独な質素な自分の部屋は、
ひとりきりは、
寂しい。
こんなことをおめでたい誠二に言えるわけもなく、
結局はニコニコと彼氏を祝って、
結局は自分の気持ちを押し殺すのだ。もう、慣れた。
「……暇だ…」
手の平を広げて上に掲げてみる。
グーパーグーパーグーパーグーパー。
…暇だ。
さっきまでも暇だったはずなのに、
誠二の声を聞いた後だと、余計に暇だ。
人声は温かくて、こんな空間には似合わない。
「そうだ」
いいこと、思いついた。
頭の中で一人遊びしているしかなかった空間が、
ちょっとした悪戯をあたしに思いつかす。
困らせてやれ、アイツを。
優勝して有頂天な誠二を少しだけいじめてみよう。
そう思いついてあたしがニンマリしたとき、丁度着信音が鳴った。
ケータイの表示は藤代誠二。
お、以心伝心?
「はいはい」
『ごめんごめん、監督の話長くて…』
「いえ、別に」
『本当ごめん…て、何かもしかして怒ってる?』
「怒るなんて滅相もございません」
『………』
演技よ演技。
あたしをよく知ってるはずの彼氏をコロッと騙すだなんて、
案外女優の人生でも歩めるかも。なんて。
『…ごめん、ね』
シュンとした声の誠二に、少し罪悪感が疼いた。
そんなのはずるい。
ちょっとくらい遊ばせてくれたっていいのに。
ええい、聞いてしまえ。
「誠二は、あたしとサッカーどっちが大事?」
『え?』
そして、うんと困れ。我が愛しき人。
ドラマや映画でこんなうそくさい台詞を言う女の気持ちが、少しだけ分かる。
これは女のジェラシーと、ちょっとした遊び心。
サッカーと言われても寂しいけど、あたしと言われても嬉しくない。
どっちも含めて、誠二なんだから。
こういう、こと。
しかし帰ってきたのは、物凄く呑気な答えだった。
困った様子もなく。
『どっちも大事』
「どっちか選んで」
『やだ』
「なんでよ」
つまんないじゃない。
『だって、とサッカーは二つで一つだもん』
「はい?」
『が応援してくれるからサッカー楽しいし、サッカーがあるからが応援してくれるんじゃん』
「………」
『でしょ?』
「………」
『てんびんになんてかけない』
何よ、もっと困って欲しかったのに。
何よ、そんな用意してたみたいにスラスラ答えて。
何よ、こっちが赤面しちゃったじゃない。
あたしはやつあたりみたく、また白い天井を睨んだ。
精一杯睨んだ。
睨む力は、緩く優しく抜けていく。
「バカ代」
『え!?』
「そんなだからみかみんにバカにされるの」
『…まで俺をバカ代って呼ぶ…』
「誠二」
だ い す き 。
君になら、こんな意地っぱりもワガママも
言ってしまえるような気がする。
「悔しかったの。なんで決勝戦だけ見にいけないのかなって」
「弱いあたしが嫌でね、天井が真っ白でね」
「ひとりは、ちょっとだけ…寂しかった」
『………』
ピンポーン
突然玄関のベルが鳴った。
「誠二、ちょっと待って」
『うん』
「誰か来たみたい…うわ、頭ガンガンする」
誠二に一言を残し、
頭痛をこらえて、玄関に出た。
私服のまま寝ておいて、良かった良かった。
「はい?」
『「ロミオ参上!」』
「ぶっ!?」
満面の笑みで立っているそいつ。
おいおいおい…
「なんで誠二がいるの!?」
『「だって、監督の話が終わってから走ってきたんだもん」』
デジタルとアナログの両方の声がする。
人声は温かい。アナログだともっともっともっと。
近くで電話をしているのはバカらしくなってきて、あたしはピッと受話器を切った。
「最初は、いきなり来てビックリさせようと思ってー」
「うん?」
「でも走ってる途中で声聞きたくなって、電話しちゃってー」
「………」
「だから電話が終わった瞬間にチャイム押そうと思ったのに」
「でも?」
「が可愛いこというから、思わず押しちゃった」
「……バカ」
バカだ。天性のバカだコイツは。
バカ代に改名した方が良い。色んな意味で、バカ。
ただし、誠二の声しか聞いてなくて、
バックの音を気にしていなかったあたしも負けないほど、バカだ。
「ねぇ、折角さー、セ○チューの1シーンを演じたのに」
「はい?」
「ロミオ参上!ってゆったでしょ」
「………」
「ここは、泣きながら抱きついてくれないと」
「………」
「…寂しかったんでしょ?俺が居なくて」
「バカぁ…」
言葉に乗せられて、思わず涙が出る。
こんなにワガママなのに、抱きとめてくれるの?
サッカーとあたしがどっちが大事?なんて。
もうどうだっていい。何だっていい。
目の前のバカが好きなバカなあたしは、
飛びつくように思いっきり、誠二に抱きついた。
「よしよし」
「………一生の不覚だ…」
「何それ!」
誠二はニコーッと笑って、
あたしをきつく抱きとめた。
「ねぇ」
「何よ」
「そんなに俺のこと好きだったんだねー」
「………」
「そっかそっか、うん」
「………」
「今度試合の時にが風邪引いたら、俺がキスして移ってあげる」
「…そしたら誠二が試合出れなくなると思うんだけど」
「あ」
「バーカ」
バカと天才は紙一重。
あたしの心を奪うことに限ったら、
こいつは天才なのかもしれない。
サッカーとあたし、どっちが好き?
愛のてんびんは、あっさりと壊された。

突然気まぐれ一発書きばんざい!
書きかけのが死ぬほど携帯やノーパソで唸っている中
なんかこんなの書きました。むちゃくちゃ久しぶりの更新…
2006.02.16 (c)愛渚 雛古