化学でも分からない、


それは不思議な特権。





















昔から、あたしの夢は、よく現実になった。


正夢とか予知夢とか、呼び方感じかたは色々あるけど、

あたしは自分の、このちょっとした力が結構好きだった。


例えば落ちてしまった小鳥を助けたり、

例えば100円玉を拾ったり、

あたしにちょっとした嬉しい気分をくれたから。



夢というものは、必ず誰でも見ているらしい。

ただ、それを覚えているか忘れているかだけの違いで、

見ていないと錯覚するのだと。


だからあたしの場合、覚えていたときは

ほとんどが現実に叶ったといえる。





「今日もいい夢が見られますように」



そう呟いて、パチンとライトを消して、

今夜もあたしは布団を被った。



「おやすみ」

「おやすみー」



寮で同室のに、今日さいごの挨拶(はおやすみ3秒なので)をすると、

二段ベッドの上側のライトも、ぽちん、と消えた。


そして出来た暗闇に吸い込まれないよう、羊に柵を飛ばせていたら、

あいにく飛べない臆病な羊が出てきてしまったので、

そのこを飛ばせようとおしりをぐいっと押す。


やっと飛んでくれたころに、あたしは眠ってしまっていた。











空中をさまよって、ぽつぽつと一人歩いていた。


地が足を受けとめてくれないこの状態で、あたしは辺りを見渡す。

どこか、知らない街に来てしまっているようだ。


誰か知っているひとに会いたいな、と思った瞬間、

ぽっ、と目の前にクラスメートがあらわれた。



ちゃん、やっほー」



にぱっ、と見覚えのある笑顔が向けられて、

あたしはやっとその子の名前を呼んだ。



「藤代くん?」

「うん、」



そのまま藤代くんは、何も言わずに

その手を差しのべてあたしのと重ねた。


ふいうちな出来事にあたまが回らずに、

ただ疑問だけがポンポンと浮かぶ。



「え?え?」

「どうしたの?俺たち付き合って一年も経つのに」


「え?え?」

「行こう、」



あたしの言葉を待たずに、藤代くんは駆け出してしまった。

うわあ、とずっこけそうになってしまい、必死にあとを追い掛ける。


たしかに藤代くんと出会ってから一年が経っていた。

だって入学して1ヶ月目にはじめて喋ってから、今はもう2年生。


ただ一度だって、クラスメート以上な関係も絆も

持っていなかったはずだったのに。





「ごめん、疲れた?」

「はぁはぁ…早いよ、藤代くん」



ゼイゼイいっているあたしを、藤代くんは優しく抱きとめた。

おとこのこ、の腕の温かさに思わず硬直する。



「え?え?」

「俺、ちゃんが好きだよ」


「…え?え?」

「だから俺と付き合って?」



さっきから言ってることが矛盾しすぎだよ藤代くん。


付き合ってるといってみたり、

付き合ってっていってみたり。


いつの間にか知らない街の情景はなくなっていて、

真っ白い、なにもない世界にふたりきりで取り残されてしまっていた。


あたしの口は思ってもみない言葉をかってに口にする。



「あたしも藤代くんが好きだよ、」



え?え?と、今度は心で呟いた。


優しく微笑んだ藤代くんが、目の前であたしを見つめていて、

どうしてだかドキがムネムネと…

違う、胸がドキドキとしてしまう(しまった、これじゃあクレ○ン○んちゃんじゃないか)


とにかく混乱するばかりのあたしの目の前が、今度は真っ暗になった。



「ん…」



自然と艶めいた声が漏れてしまい、

自分がいま、キス、日本語で接吻、をしたのだと気付く。



「だいすきだよ」



と藤代くんは笑った。



「あたしもだいすきだよ、」



とあたしは笑った。





世界がぐるぐると反転して、

藤代くんの体温にほかほかと体が癒され……











ジリリリリリリ!!



うるさく鳴いた目覚ましを足でけとばし、

目が開いたあたしは、はっ、と天井を眺めた。


あたりは見慣れた寮の自分とが使っている部屋で、

藤代くんはそこには居なく、少しコトコトと音がする。


と、思った瞬間ガバッと布団がはがされて、

がアップで顔を出した。



「おはよう、

「…おはよう



ああ、さっきの、コトコト、はがベッドのはしごを降りた音か…

寝惚けた頭でうんうんと、うなづく。



「なにか、いい夢でも見た?」

「夢…?」



ぼーっとしたまま記憶を辿ってしまい、

全部を思い出したあたしは、ぎゃーっ、と叫んだ。



「ど、どうしたの…?」



おどろいて目を丸くしている友人に、

のせいで思いだしちゃった…!と

子供じみたやつあたりをした。



「何見たのよ?」



おそるおそるも訪ねてきたに、

あたしは、むう、と不機嫌そうに言った。



「藤代くん」

「藤代?」



時計を見るともう7時すぎ、

もそもそと布団をたたみながらクラスメートの名前を呟いた。



「…藤代がどうしたの?」

「告白したりされたり、手を繋いだりしたの。なぜか、ドキがムネムネ」



ふざけて言ってみた最後の言葉は軽くスルーされてしまうあたし。

ちょっぴり可哀想な自分だと勝手に思った。



「ふーん、藤代が?」



くすっ、と面白そうに笑ったに、はっと思い出す。


この同室の親友はサッカー部マネージャーで、藤代くんはサッカー部で、

猛スピードで支度をしているを見るからには、

あと30分ほどで朝練がはじまるのだと。



「ふ、藤代くんには言っちゃ駄目だよ…?」

「どうしようかしら、」





「駄目だめ、絶対。藤代くんを好きだなんて、あたしの身のほど知らず。恥ずかしくて死んじゃう」





そういったあたしに、親友はにこっと悪戯な笑みを浮かべた。


「聞いちゃった」



え?え?

何故か現実のあたしまで同じ疑問をうかべる。


そして一歩も二歩も遅れて気が付いた、

自分がずっと隠し通していた気持ちをもらしてしまっていたのだと、やっと。



「言っておくけど、藤代もが好きよ?」

「へ?」

「サッカー部では公認の事実なんだけど。また当たったわね、予知夢」



は、そうとだけ残して朝練へと出発してしまった。



「…え?え?」



ひとり頭を抱えるあたしが、「あたしもだいすきだよ、」の台詞を言うはめになるのは、

あと数時間後のおはなし。










自分のちょっと不思議な力が、あたしは大好きなのです。


例えば、好きなひとへの想いが叶ったり、

例えば、好きなひとと手を繋いだりキスをしたり、





あたしをとっても幸せにしてくれるから。












藤まみ藤を書いてもちょっと良かったんですが…(笑
無難に夢にしました。明日は藤笠と藤若か!(うはうは

9月は毎日がうっきうきですv

(c)愛渚 雛古 2005.09.05