神様がひとりひとりに好きな人を与えてくれて、



全員が両想いの世界だったらそんなにいいことってないのに





















「英士、帰ろー」

「うん、ちょっと待ってて

「はいはーい。あ、バイバイ!」

「うん、バイバイ」


「ああ、バイバイ、さん」

「じゃあね、英士君」



、中学2年生。

あたしには、1年間ずっと大好きな人がいます。


その人の名前は、郭英士くん。

今丁度、親友のと肩を並べて教室を出ていきました。





一人ポツリと、委員のあたしはモップを持ったまま残された。

と、同時に急に涙が込みあげてくる。



「……っ」



どうしてだろう?










こないだ、電車を降りたときに一人の男の子に腕を捕まれた。

くしゃっとした無造作ヘアーが印象的で、一途で優しそうな男の子…

確か名前は、若菜君。



『登校の電車でいっつも見てた。一目惚れってやつで…俺と、付き合えない?』



あのまま若菜君の優しさに乗っかってしまえば、

今この瞬間も恋人の愛情に包まれて暮らしていたかもしれないのに。



『ごめんなさい…あたし、好きな人が…』

『それでもいいからって言っても?』



その目に吸い込まれそうになって、思わず少し揺らいだのを覚えている。


だけどそんな中途半端な気持ちでOKしてしまったら、

自分の想いにも若菜君にも嘘をつくことになると思って。


あたしは、静かに首を横に振っていた。


寂しそうな背中…ごめんなさい。

罪悪感でいっぱいで、郭君への気持ちも見失ってしまいそうだとその時は思った。










「…なんでだろう…」



どうして、なんだろう?


今あたしは教室に一人ぼっちで居て、

それでもさっき出ていった郭くんのことで頭はいっぱいで。



「…なんで、あなたじゃないと駄目なの…?」



この地球に生を受けて、何十億分の一の確率であなたに出会った。

毎日知らない人とすれ違って、回りのクラスメートの男の子だって良い子ばかりで、それなのに。


あたしは郭英士という子に恋をしていて、それはとても素敵なことで。

奇跡に近い程の想いなのに…


重ならないなんて。



若菜君だって同じ。

そのすれ違いの中であたしを見付けてくれたの。

奇跡の気持ちを受けとめられないのはどうして?



…どうしてだろう、郭君の何処が好きなのか問われても、きっと何ひとつ答えられないのに…

あたしは、あの人じゃないと駄目なんだ。



報われない想いに涙が止まらないまま、鞄を片付ける。

放り出したモップは、乾いてしまってモップの役目を果たしていなかった。





ふっと、窓の外を見ると、

反対側のの家まで送って帰ってきたのだろう、

校門の前を通る郭くんを見付けてしまった。



ねえ、こんなにも偶然を見せ付けておいて、

あなたはあたしを選んではくれないのですか?



出会わせて、惚れさせて、それなのに神様は


こんな運命を与えるのですか?



「…郭くん!」



気付いたら窓から乗り出して叫んでいた。

想いと同じように届かなかった声。


落ち込む暇もなくて、全速力で教室を飛び出す。










「郭くん…!」

さん…?」



息があがったまま呼びとめたあたしに、びっくりした様子の郭くんが立ち止まる。


ああ、あたし、あなたとこの2分間を共有出来ただけで、

もういいかもしれない…



「どうした…」

「あたし!」

「…?」



しっかりとあなたを見つめて、気持ちを溢さないように…

以前若菜君があたしにそうしてくれたように。



「…郭くんが、好きです」

「……え?」


「大好き…です」

「……さん…」



ありがとう、でも俺…と続く言葉を、手で遮った。



「聞いてくれただけで、あたしには十分」

「…うん、」

「ばいばい」

「うん、また明日」



今日二回目のバイバイを言って、郭くんに背中を向けた瞬間。




何かが弾けて、あたしはその場で泣き崩れた。





どうしてだろう。

なんで、あなたじゃないといけないんだろう。



どうしてだろう。

人が必ず人生で転ぶのは何でだろう。



どうしてだろう。

どうして、だろう…



また、ひとつ、腕時計の秒針が進んだ。












いきなり悲恋が書きたくなって…
何故かなりゆきで英士さまになりました。

宿題やらなあかんのに何で夢ばっか書いとるんやろうあたし…(あははー;)


(c)愛渚 雛古 2005.08.24