「高校、行くまでなら」
それが、哀しい条件でした。

中学3年生の秋。
そろそろ受験も本格的に考えるようになってきた頃。
恋い慕ったひとりの男の子に、告白をしました。
『好き…です』
学校の王子様のような存在の、彼だったから。
付き合う事…全く考えてなかったらと言ったら嘘になるけれど。
とりあえず、この零れすぎた想いを伝えようと、そう思って。
『高校、行くまでなら』
『え?』
『中3のうちなら、付き合ってもいいけど。どうする?』
その条件からして、もちろん彼…三上亮には遊びだったんだろうけど。
答えなんて、決まっていた。
ただ貴方に無我夢中だったから。
『…お願い、します』
亮君は、いつもの様にニヤッと笑って。
『おう…』
とびっきりの甘ったるい声で私の名前を呼んだ。
「、屋上行くぜ」
「あ、待って待って、すぐ行くから」
本当に、夢をみているみたいな生活が訪れた。
今、改めて考えると夢を見ていたんだろう。
彼は、惜しみもなく欲しい言葉をくれるから。
勘違い、してしまうんだ。
亮君が私を好きだなんて。
ガチャン
いつも、どこからか持ってくるカギで屋上のドアを閉鎖する。
誰かが入って来ないようにする為じゃない。
私が、逃げられないようにする為だ。
「…は…」
「愛してる、」
いつも、行き成り深いキスをする。
一番欲しい言葉を軽く紡ぐ。
こんなアイなら、いらない。…いらない、けど。
欲しい。亮君が、欲しくてたまらない。
「ぁ………」
彼の大きくて骨ばった手が、私の背中を這い、ホックに辿り着く。
そこから又、いつもの行為が始まるんだ。
もう、3月に入ってしまった。
きっとこれが、私の、最後の春。
もうすぐ…高校生だ。
「亮君……」
「ん?」
ああ、そんな、優しい口調で。
流されてしまう。騙されてしまう。
惚れた弱みは、大きいの。
「もうすぐ…高校生だね」
「…ああ」
私はどこかで、期待していたのかもしれない。
彼が、やっぱり一緒に居ようと言ってくれる事を。
現実は、甘くなかったけれど。
夢見ごこちも、いいところだ。
「そうしたら……私達、終わりだね」
「…ああ」
ほら、ね。
分かっていた事でも、心が壊れるくらいに重い。
こうして、抱き合っても、
こうして、絡まった手も、
全部全部、彼の前では無意味。
遊び、なんだよね。
だったら、
だったら…
「愛してるなんて、言わないで…」
「……」
「思ってもいないのに、そんな事口に出さないでよ…!」
「………悪ぃ」
自分の想いを伝えられれば、それで良かったと思ってた。
だけど、形になるのなら繋がっていたいと思った。
恋人という名前を手に入れたら、体を求められた。
どんな意味でもいい、彼が欲しくなった。
体まで手に入れたら、心が欲しくなった。
人は、どんどん欲深くなっていくから。
一番欲しかったものは、いつだってもらえないの。
「ううん、それでもいいって言ったのは私だから」
「……おう」
「高校に行ったら、可愛い彼女作ってね」
「……おう」
無理にでも、笑った。
貴方なんて人を好きになってしまった自分を憎む。
それでも、それでも。
この気持ちは消える事を知らなくて。
「バイバイ、亮君」
「……」
「ごめんね、辛すぎる。今日で、終わりにしよう」
「………っ」
屋上のカギを持って、ドアまでの距離を歩いた。
未練がましい女だな。
彼の目に背中が焼き付いてくれたらいいのに、なんて。
桜の花びらが、チラチラと舞う。
普通の人が見たら、花吹雪で綺麗なんだろう。
私の灰色の目には、桜が泣いているように写る。
「私の春も、終わったな…」
そっと、地面に積もる花びらをすくって。
川の中に、サラサラ流した。
「もう、春も終わりだな…」
後ろからそんな声がして、そっと振り向くと、
忘れたと思っていても全然忘れられてない顔があった。
「亮…君」
「…俺な、遠距離恋愛ってのが嫌だったんだよ」
「………」
「親の都合で、高校になったら引っ越す事になってて」
「………」
もうほとんど残っていない、
桜の花びらが目の前を舞う。
「短い期間だったから…せめて体だけでもって、思っちまって」
「………」
「傷つけて…悪かった。本当、ごめんな」
「………」
さらっと心地よい風が吹いて、
頬を髪を撫でていく
「けど、のあんな顔見て。俺、何やってんだって、思って」
「………」
「親に頼んで、こっちに残してもらった」
「………」
「もう一回…俺と、やり直して、くれねえか?」
「……亮…君」
「実を言うと、最初は遊びのつもりだった…だけど」
「………っ」
「に言った言葉に、嘘はひとつもねえよ」
「亮っ……!」
気付けば、流れ出ていた涙を、
春の気温が優しく乾かす
「お願い…します」
顔を火照らせた彼は、そう言ってうつむいた。
こんなに上手くいくだなんて…
夢見ごこちも、いい所だ。
全部、夢かもしれない。
それでも、いいから。
答えなんて、決まっていた。
「うん……亮」
とびっきりの、甘ったるい声で。
最後のひとひらの花びらに包まれて、思い切り抱きしめあった。
これが、最後の春。
ふたりだったら、夏の太陽にだって勝てる気がするから。

さっきお風呂の中で急に思い浮かんだのが、「高校、行くまでなら」の台詞。
本当は悲恋悲恋な感じにしようと思ってたのですけど…
やっぱり私は最後は甘く終わらないと気がすまないようで(苦笑)
最低キャラにしようと思ってたみかみんが、
いつのまにかヘタレって一途になってました(笑)
まあ、愛渚は本物の悲恋ってのが書けないやっちゃなー
と思っておいてください。あはは。
ではでは、失礼しました!
(c)愛渚 雛古 2004.04.06