何も信じない



何も信じられない





















「ねえねえ、ちゃん、明日映画一緒に見に行かない?」

「ごめん、あたし映画は一人で見る主義だから」



お昼休み、教室にそんな声が聞こえてきた。

最初の言葉はちゃん。

それから、2番目の言葉は…さん。



『やっぱり付き合い悪いよねー…関わらないでおこ?』

『そうだよね、ああいって一回も誘いに乗った事ないじゃん』



後ろの方から、コソコソと悪口が聞き取れる。

女の子って皆可愛いんだけどさ、俺、こういうのは好かないかも。

さんにだって何か都合があるんだろうし…

って、駄目だ。きっとさん寄りの意見になるから。



俺はあの子のことが好きだ。

この事を知ってるのはきっと俺だけだと思う。



何だか、俺らしくないけど、

さんは、何故かこっそりと好きで居たかったんだ。



普段から一人で居て、俺の周りに寄ってくる女の子とは違う空気が新鮮で、

最初は何気なく見つめていただけだったけれど、

いつのまにか好きな気持ちに変わっていた。



あの子が時々見せる、

寂しげな表情が凄く心に染み付いてしまったから。



ずっと見ていたからちょっとして気が付いた。

さんは、本当は凄く凄く脆くて弱いって。



守ってあげたい、そんな大げさなものじゃなかったけれど。

側に居たいと、そう思ったんだ。










さん」

「え、何?」



今日の放課後、一度だけでも喋ってみたくて声を掛けた。

何でだか、女子に睨まれている姿を見ていたらちょっぴり切なくなって。



話題も何も用意していなかった。

そんな事出来る程、器用な人間でも無いし。

だけど、いつもなら煩いって三上先輩に殴られるような口も、

緊張して、何も喋ってくれなかった。



「あ、あのさ!」

「だから何ってば」



不思議そうにこっちを見ている(ちょっと怒ってるような気もするけど)

ああ、やっぱり可愛い。俺はこの子が好きだ。



「今日、一緒に帰れない?」



思わず、口から飛び出てしまった言葉。

目を丸くする、そんな表現がぴったりな程一瞬驚愕の顔を見せたさん。



「…やだね」



分かっていた答えだったけど、やっぱり考えと言われるのは違う。

ちょっと落ち込んだけど、何も言わずに着いて行って見ることにした。

サッカー部の練習は今日だけ休ませてくださいキャプテン。









「ねえ、何で着いてくるわけ?」

「…家がこっち方面だから、かな」

「…藤代は寮でしょうが」

「俺の名前知ってたの!?」



知ってるよ、と少しだけ横顔で笑ったさんに、

思わず顔が赤く火照ってしまった。

気付かれないように必死で俯く。



ああ、

こんな女々しい俺、なんかやだ。



ちゃんの家遠いんだね」

「ストーカー野郎。気安く呼ぶんじゃない」



そういいつつも無理やり追い払ったりしない、

そんな実は優しい君が、大好きなんだ。



人通りの少ない路地、踏み切りの前。

目の前のランプが点滅して、俺を応援してくれるように見える。



ねえ、今日始めて喋ったけど、

さんの歴史に俺の名前が出るのは今日からかもしれないけど、

俺の頭の中は随分前から君に占領されてるの、知ってた?










「好き、だ」









多分真っ赤な顔を見られないようにそっぽを向きながら。

それでも聞こえるように大きな声で、近づいてくる電車に負けないように。

ねえ、俺の気持ちは、そこに伸びる線路みたいに真っ直ぐだよ。










「…悪いけど、」

「……………」

「あたし、人と関わりたくないから」

「……………」



答えは、知っていた。

フラれることくらい、分かっていた。

だけど、一つ予想と違ったのは、



俺がフラれた理由が、重く切なかった事。






カタンカタン…






音がして、気付いたら踏み切りのバーが上に上がりかかっていた。

気まずそうに、顔を合わせないようにしながら駆け出す準備をしていた、さん。






カタンカタン…






「待って!!」





思わず、彼女の腕を掴んでいた。

構わず走り出そうとしていたけど、ここは男女の力の差。



さんは、俺の腕の中にすっぽり納まった。

思っていたよりも細くて小さくて、女の子の体。

そう思ってしまったら、胸がこれ以上ないくらい跳ねだした。



「離して!!」

「いやだ」

「離してってば!」

「いやだってば」



「藤し…」

「何で、」




「何で、人と関わりたくないなんて悲しい事言うの?」









俺のその言葉を聞いた瞬間、彼女は真っ暗な目をして泣き出した。

思わず捕まえていた腕を離してしまったけれど、

もう彼女は逃げようとも、むしろ動こうともしなかった。



「…ごめん、答えなくていいから」

「……………」

「好き、ってそれは本当だけど」

「……………」

「どっか、座ろっか」



何も喋らずに、ただ俺に着いてくる。

心配よりも、迷うよりも、俺がしっかりしなくちゃって気持ちが何故だか強くて、

喫茶店か公園か、とにかく落ち着けそうな所を探した。







「…藤代、」


「ん?」



知らない町の路地をうろついている中、

不意に、彼女が俺の名前を呼んだ。



「………」

「…何でも聞くよ?」

「………っ」

「…?」









「幸せなんて絶対に来ないのに、どうして健気に生きられるの?」








涙を今にも零しそうな目をしながらそう聞いてくるさんに、

ただ、驚愕するしかなかった。







「え…?」

「幸せが来ないことくらい、本当は分かってるでしょ?それなのに…」

「……さん、」

「答えてよ…!!」




「どうして、幸せが来ないって決め付けるの?」

「……っ」



人は、裏切るものだから。

人は、所詮自分勝手だから。

それだったら最初から誰も何も信じない方が、

いっその事楽だと思った。



世界の何処にも幸せなんて転がってないのに、

それを探し回ってる人間を哀れんだ。

自分をひと時満たすために、

愛だの恋だの語る人たちが許せなかった。



「あたしには分からないの…何に向って、生きてるの?ねえ」






考えていたよりも孤独に苦しんでいたさん。

思いつめていて迷宮に入ってしまった彼女。

びっくりした。俺なんかよりずっとずっと大人なその子に。





さん…明日が見える?」

「え?」

「明日は…未来は、見えないから面白いんだよ」

「………」

「いくら強いって言われてる俺達サッカー部でも、もしかして負けるかもしれない。

 それに、どこまで自分が強くなれるのかみてみたい。その為に練習する」

「………」

「幸せは見つけるもんじゃなくて、自分で作るんだよ?自分と未来を、信じて」

「………っ」

「もう少し、自分を信じてあげなよ」

「………っ……ぁ」



うわあああああ

声を上げて泣いたさんの頭に手を乗っけて撫でてみると、

サラッと髪の毛が指に通って心地よかった。





「ね、皆が難しいなら、俺だけでもいいから…信じて、くれないかな」




泣きながら、小さく、

それでも確かに彼女は頷いた。



裏通りの真中で、

二人で少しだけ抱きしめあって、



重ねるだけのキスをした。












さ…」





涙も乾いて、喋ろうとした俺の口を塞いでにっこりと笑った。

始めて見た笑顔に、

また赤くなってしまう俺の顔。



「あははは、真っ赤だ」

「うるさい!」



「ねえ藤し…」

「誠二」



お返しに真似をしてにっこり笑ってみると、

クスクス笑いを通して、ちょっとだけ真剣な顔になった。


ほんのり赤い顔をして、俯いて。



「誠二…ありがとう」








俺達は今日から、

俺達だけの道を

選んで歩き続ける













なんだかどうしても誠二じゃないような気がします(滝汗)
ごめんなさい。詩から膨らんだ夢を、お題と掛け合わせてみました。

もっと長編にしようかと思ったんだけど、
ちょっと色々無理だとの判断で短編に圧縮。

内容足りない気もしますが、深く考えずに呼んでやってください。


(c)愛渚 雛古 2005.05.16