人の気持ちには、奥があって。



全てを晒している人間なんて一人もいないでしょう?




















ミンミンと耳にまとわりつく蝉の声。

もう大分日も暮れてきたというのに、真夏日の暑さはそのまま残っていた。


今日は、久しぶりに学校を訪れた。

コンビニに行くついで、藤代に会うために。



「…あれ、じゃん!」



フェンスのそばでボーッと練習を眺めていると、

合間に彼氏の座に座る藤代が声を掛けてきた。

こっちに転がってきたボールを取りにきたらしい。



「誠二、ここで見てるから終ったら話そう?」



あたしがそう呼び掛けると、

藤代は一瞬だけ寂しそうな顔を溢して、

またすぐにニカッと笑って、



「OK、じゃあ終ったらダッシュで来るからっ!」



そう言って、ボールを持ってフェンスから離れていった。









『俺、のこと好きになった』



あれは春か、桜が散り終わった何とも中途半端な季節。

明るくてあたしとは正反対の男の子に呼びとめられた。



『…何の冗談?』



仮にもサッカー部のエース、あたしになんて走らなくても

彼女になりたい子なんて敷き詰めに転がってるでしょうに。

そう言ったあたしに、見たこともないくらい真剣な目を向ける、目の前の男の子。



『俺は、がいい』



そう言ってニッと憎めない笑顔を向けられたら

否定権を消されていくような気がした。



『…あたし、絶対藤代の事好きになれないと思うけど?』



冷たい女、そう思われたって全く構わなかったのに。



『いいよ、それでも。俺、を振り向かせてみせるからさ』



その自信はどこから沸くの?

そう皮肉を飛ばせば良かったのに

何故かそうできなかったあたし、



『じゃあ、夏までに惚れさせてくれるなら』



そんな、肯定の言葉を浴びせていた。









「キャプテン、ナイスキャッチ!」



藤代の声が聞こえて、

雲の成り行きを見つめていたあたしは視線をグラウンドに戻した。


白と黒のユニフォームがうごめく中で、一際よく動く影が藤代。

軽やかに、それでもしっかりとボールを操る姿は、

サッカーなんて全く知らないあたしにも惹かれるものがあった。


パス、シュート。


頑張っている人は、煌めいていてすごくカッコいいんだと思う。

まさかその中心にいるような藤代が、

遠く離れた泥の中に隠れていたあたしに惚れただなんて、本当に理解不能だ。


タイプがこっているのか、単に馬鹿なのか…

後者だろう、多分。


付き合い始めは冗談だとしか思ってなかったけれど、

藤代から延びる真っ直ぐな気持ちは痛いほど伝わっていた…


今は、もう夏。

蝉の声がそれを証明している。


そろそろ、あたし…



っ、おまたせ!」



いつのまに練習が終わったのか、

だらしなく制服をはおった藤代がそこにいた。


本当に全速力できたことが、目に見えて分かる。



「何もそんなに急がなくても…」

「だって、少しでも長くと居たいじゃん」



屈託の感じられない笑顔が、あたしに向けられる…


ねえ、藤代。



「どこ行きたい?公園かファミレスか…」

「あたしね、お別れ言いにきたの」



突然言い捨てた言葉に、藤代は驚きもしずにうつ向いた。


予想外の仕草に、こっちが驚愕するほど。



「藤代…?」

「…分かってた。が今日それを言いにきたって」



だからさっき、少し悲しくて。

そういう藤代に、数時間前寂しそうに笑われたた顔を思い出す。



「ただ、少しだけ…今、もう少し一緒に居れるのを、期待してて」

「………」

「俺に惚れさせるなんて言っといて、カッコ悪…」



ははっ、と、藤代の純粋な笑みが少し崩れた。


…馬鹿。

泣きたいのは、泣いていいのは、あたしじゃないのに。



「……っ」

「…?」



訳が分からない、抑制のしようもないまま目から水滴が流れ落ちた。

どうして…?

始めから、こうなることは分かりきっていたはずなのに。



「ごめ…なさ…」

「…いいって、今まで楽しかったんだしな。サンキュ」



こんなに好い人を、あたしは悲しませてしまっているんだ。



藤代に、惹かれていた。



それだけは本当に嘘じゃなくて。

一度も想いなんて伝えなかったけれど、

出会ってからどんどん好きになっていっていた。


藤代の隣にいれて、笑顔をもらえて、とてつもなく。

いつもずっと、嬉しかった。



「…ありがとう、ばいばい」



これ以上、甘えてしまう前に。

一度だけ藤代の手を握って、振り返る。


温かくて大きい掌の体温。

一生、忘れずに生きて行くから。



「…っ!」



後ろから降りかかる声を、必死に聞こえないようにして。



「俺、もう以外好きになれないから…!」

「…っ」



ねえ、その言葉。

嬉しすぎるけど…お願い、撤去して?


後ろで言の葉はひらひら舞い続ける。



「帰ってくるまで、ずっと待ってるから…!」


「俺、手紙書くから!」

「!?」



その一言に、思わず向き直してしまった。



「な…んで…」



驚きを隠せないあたしに、藤代は優しく笑んだ。



「カナダ…行くんだろ?」

「なんで知って…」

ちゃんが教えてくれた」



ああそうか、こないだに溢してしまっていたんだ…



は、優しいから。その前に悪者になってくれるつもりだったんだろ?

 俺が、悲しまないよう…」



そんな甘ったるい素直な台詞を言われてしまったら。

全部、全部台無しになってしまう…



「違う…あたし、優しくなんか…藤代のためじゃない…!

 あたしが、あたしが嫌だっただけ…

 藤代が悲しむのを見るのを、あたしが嫌だっただけ…!」



言葉は気持ちにのって、理解より先に流れ出てきて。



「それでも俺は…嬉しかった」

「…っ!」



台無しだ、何もかもが。


惚れないようにした決意も、

隠し通した我慢も、

別れをきり出した勇気も。


藤代に、全部壊されてしまう。



が、好きだから…今までもこれからも、いつまでも」

「…馬鹿…」



本当に、やっぱり馬鹿だ。

あたしなんかを好きになって、あたしなんかにそんな言葉をくれて。



「ごめんなさい…あたしも、好きだから…」





人混み、目線、町中、蝉の声。

想い、気持ち、言葉、気温。


何もかもを気にしずに涙の味がするファーストキスを交した。





「ね、振り向かせるって言ったでしょ?」

「…馬ー鹿」

「あ、また言ったな!?」



馬鹿なあんたに惚れたあたしは、もっと馬鹿だけど。





意地っ張りも上辺も、弱い自分にサヨナラ。

愛しいアイツと、ひとときだけ、サヨナラ。


気持ちはいつも側に、すぐ戻ってきます。








昨日の夜中…というより、今日の早朝?
携帯で書き殴った小説。ちょっと無理やり御題へ。

本当はものっすごい悲恋にしようと思ってたのになー…あれ…?
あたしの小説はじゃじゃ馬なので書きたいようにキャラが動いてくれません。
いつの間にか甘くなってるよ…!

と、とりあえず逃げます。ありがとうございました!


(c)愛渚 雛古 2005.08.11(upは12日)