ちくちくと痛いけど


少し触れてみたいと思うだろ?





















「かーくー!」

「…何?藤代」



選抜内では、もうすでにお決まりとなっているこの光景。


妙に郭になつく藤代と、

ちくちくしながらも満更でなさそうな郭。


いつのまにか選抜メンバーは、二人はデキてるんだと思い込むようになっていた。



「今日も一緒に帰ろうなっ!」

「…ひとりで帰れば?」



よこでわめく藤代をよそに、またリフティングを始める郭。


他のメンバーも面白そうにふたりを眺めながら

正確にボールを足元で操っていた。



「え、なんで!?」

「なんでも。昨日も着いてきたでしょ」


「あれは郭がついて来いっていったから…!」

「忘れた」



藤代もリフティングをしてはいるが、意識は確実に郭に向いていた。


それでもボールを落とさないというのは、誉めるべきか叱るべきか。

まあ、さすが、といっておくのが無難だろう。





「なんだかんだ言って結局、いつも藤代と帰るんだよなー」

「だな」



面白くなさそうに若菜と真田がその光景を見つめる。


はじめの頃は面白がって、なぁデキてんの!?とことあるごとに聞いたりしていたのだけれど、

何があっても、そんなことあるわけないでしょ、の一点張りで、

結局はこうして傍観せざるをえなかったわけだ。



「英士ももの好きだよなー、藤代なんて犬じゃん、犬」

「だな」



にたもの同士だろ、なんて口がさけてもいえない真田は、

ほどけた靴ひもと葛藤しつつ相槌をつく。


なんだよ一馬、まだちょうちょ結びできねーの?と

結人が笑った瞬間、



「じゃあ今日は、俺の寮室に来てよ!」



藤代の声がひびいた。


ボールを落としたメンバー、数人。



「何いってるの、行くわけないでしょ、」



ちくちくと、まるで体中からちいさな棘を出すように郭はしゃべった。

それでもその顔は怒っているわけでもなく、むしろちいさく笑んでいる。


藤代は、全く肯定なんてされていないのに、

それでも嬉しそうに微笑んだ。



「じゃ、練習終ったらまたな!」



そういって、返事もまたずに

FW集合!と叫んでいるコーチのもとに走っていってしまう。



「全くもう…」



そういいながら、その背中を見つめる郭の顔は、

ちゃっかりとしっかりと、嬉しそうにしか見えなかった。











「若菜!真田!」

「…なんだよ」



練習終了後、声をかけてきた藤代を、

怪訝そうに見つめながら若菜と真田は声を放つ。



「英士のとこ行かなくていいわけ?」

「入り口のところで、待ってたぜ、う・れ・し・そ・う・に、な」



そりゃあもちろん、行くけど!と藤代はにぱっと笑い、

そうじゃなくて、と付け足した。


シャワー浴びたてなのか、動くたびに石鹸の香りが鼻をくすぐる。



「いつも郭借りて、悪ぃな、と思って」

「けっ、のろけかよ」



違うって、といいつつも、

嬉しいのかにんまりしたままの藤代。


単純なやつ、と、普段の自分も忘れて若菜はそう思う。



「で?結局、英士とはどこまでの関係なんだよ」



ずばり、と聞いた若菜に、それは俺も知りたい、と真田も割り込む。

藤代は、うーん…と考えながらもきっぱりといった。



「俺が好きなだけ?」

「「は!?」」



どんだけ鈍いんだこいつは!



声も気持ちもそっくりハモった若菜と真田が、

やがて呆れた目になって藤代を見た。



「ていうか、部屋に行き来してるのにそれだけ?キスもエッチも何も?」

「うん、」

「……はぁ…」

「え、何だよ!?」



こんなこと、なんで俺達が言わなきゃいけねーの?と

文句をいいつつも二人がいう。



「「どう考えたって、英士もお前が好きだと思うんだけど」」



呆れモードの空気に、異質な動物いっぴき。



「え…!?それ、ホント!?」



ものをいう気力もなくしたのか、うん、とうなづくだけの二人に、

ま、じで!?なんてこの場で言ったら奇声に近いものをあげて、


藤代はとっとと二人のもとを去り、郭のもとに行ってしまった。



「疲れる…」

「同感」



部屋に残されたふたりがこんなことを呟いていただなんて、知る由もなく。



「だけどなんか、」

「ほっとけねーっつーか」



ニッと笑いあって、若菜と真田もまた、控え室をあとにした。










「かーくー!」

「…遅い、」



走りこんだ藤代に、郭はまた、ちくんと言葉をかぶせる。


それにも全く動じず、ずっと笑顔でいたのか、崩れない嬉しそうな表情に、

郭は少々目を丸くした。



「…どうしたの?」

「ううん、何でもない…!」



そう言って、顔をあげて、

郭の手をくいっとひっぱって、


少し強引に口付けをした。



「…!」

「ね、郭」



間近な顔のまま、にこっと微笑んで。



「すき、だよ」



ちいさな棘みたいな君から、

きっと「俺も、」なんて言葉は聞けないと思っていたのだけど。



「…うん、俺も好きだから、」



そう、にこりと笑われてしまったら、

もう藤代は嬉しさに夢中になって、固まるしかなかった。









たとえ一生聞けなくても、

たとえこれからずっと、意地悪されても、


それでいいんだ。



ちいさな棘のような君も、

甘ったるい薔薇のような君も、


全部が全部、好きだからね。













藤郭藤…!なんかもう、CPからしてむちゃくちゃ?
うちの英士様は攻め一本のはずで…
うん、やっぱり受けにはなってくれないのでリバ可な方向でね。

結人と一馬を無駄に登場させてしまった。
今日ヨーグルト食べたからかな。(ぇ

(c)愛渚 雛古 2005.09.08