近くにいるのに、 星のように眩しかったんだよ。『星を見ると、なんだか不思議な気分にならない?』 そう、嬉しそうに語るタクを見た日から、 俺の中でタクは、星、だった。 「ねー、タクってばー。遊ぼうよー」 「待っててって言ってるだろ。あと少し」 「さっきからそればっかじゃん」 武蔵森男子寮の自室で、ベッドに座りながらタクを見つめる。 結構前から、ずっとこのままだ。1時間くらい。 ひまでひまで仕方がない俺をよそに、 タクは黙々と課題のプリントを仕上げる。 枕をボンッと叩いてやつあたりをしてから、 またタクに声をかけた。 「タクー」 「もう、誠二!集中できないって」 「だってー」 だって。 昨日やっと俺が告白して、 昨日やっと両思いになれて、 昨日やっと、これからは変われるんだと思ったのに。 なにも変わってない。 この枕もこのベッドもこの部屋も、目の前のタクも。 ぶーっとぶう垂れてる俺に、タクがやっと声をかけた。 「誠二は宿題終わったの?」 何かと思ったら、それか。 はぁーっとため息をつくと、タクは眉をひそめた。 終わったわけがないことくらい、分かってるだろ? 枕をぎゅっと抱きしめながら、タクの目を見上げる。 「ねぇ、タク」 「何」 ああ、本気で鬱陶しそうな声色。 俺は少しだけさみしくなって、そのまま枕に顔を伏せた。 「俺ってタクの、何?」 その質問に、タクは一瞬だけとまどってから、 俺の顔も見ずにいった。 枕から顔をあげても、交わらない目線。 「彼氏じゃないの?」 「そうだろ、親友兼」 うん、とタクは呟いた。 その視線はまだプリントに突き刺さったまま。 「俺のこと、すき?」 また、質問を投げると、 また、一瞬だけとまどってから、 また、顔も見ずにいわれた。 「すき」 冷たいなあ、とむなしくなってきた。 そんな冷たいタクだってもちろん、 全てがだいすき、なのだけれど。 いくら会話の内容に「彼氏」とか「すき」とか いくらそんな単語が出てきたって、 やっぱり何も変わってない気がするんだから。 「だったら、どうして」 「ねえ、誠二」 遊んでくれないの? そう聞こうと思った口は、タクに遮られた。 ああ、またきっと、君は うるさいって、俺を怒るんだ。 「付き合うって、どういうこと?」 「…え?」 いじけて枕の糸くずを拾っていた俺が顔を上げると、 今度はしっかりと、タクの大きな眼に絡み合う視線。 「すきって言ったりキスしたり、もっと言ったらSEXしたり。それだけ?」 「…どういう、こと…?」 シャーペンをとり落としたまま、タクは、 聞いたこともないくらい寂しそうな声で、言った。 「俺を信じてない?」 その言葉に、ズキッと、 俺の心臓は痛みを感じる。 「…ごめん、ちょっと頭冷やしてくるよ」 やりかけのプリントを残したまま、 ドアの外に駆け出していってしまったタクに、 ここで追いかけなくちゃ馬鹿どころじゃない、と 自分に鞭をうって俺も走ってあとを追った。 はぁはぁ、と俺の息が荒い波をうつ。 気付けば学校の敷地外まで来てしまっていて、 ただひたすら、タクの後を追うほかに術がなかった。 「…タクっ!」 名前をよぶ、届かない。 頭上には一等星から裸眼では見えないものまで、 果てしない星が輝いてみえる。 タクの背中が、その星たちと似て見えた。 「タク!!」 もういちど、名前を呼ぶ。 さっきから何度も何度も、必死で。 もうここは、俺の知らない町並みで、 諦めて帰ろうなんて、みじんにも思わなかったけど、 億がいち、思ったとしても寮への道のりすらもう分からなかった。 自信のあるはずの体力も、大分落ちてきたところ。 俺より体力がないタクは、そろそろ… そう思って顔をあげると、 背中を向けたまま、立ち尽くしている見慣れた姿があった。 肩が、はぁはぁと息をしている。 そのうしろ姿が、とてつもなく小さくみえて俺は、一目も気にしずに抱きついた。 あまり人通りのないこの道でも、 さっきからパラパラと人が俺たちを見つめる。 それを気にしていても、いなくても、どうでもよくて。 無言のまま、その体制のまま、何分か時は流れた。 「…誠二、」 「ん?」 声がして、タクの背中が分からないほど小さく振動する。 「わからないんだ、」 「…何が?」 「誠二のことが、すきすぎて、」 「………」 ただ静かに、いつも聴かせてくれるピアノの音色のように、 タクは話した。 遥か上にある星たちも、 俺たちの噂話をしているようだった。 「付き合ってたから成績が落ちたとか、サッカーの練習に身が入らないとか、」 「………」 「そんなこと言われたくなくて、今日いちにち、普段通りにしてたつもりだったんだけど、」 「………」 「それじゃあ、もの足りない俺もいて、」 「………」 「どうしたら、いいんだろう…」 「……タク、」 顔を向かせての、軽くあまいキス。 俺には何もいえない、何もできない、ひとことで言ったら脳なしだから。 だけど、俺といるときは笑っていてほしいと思うんだよ。 わがままだって、思うけど。 「…誠二…?」 「タクがしたいように、それでいいように、振舞ってよ。俺はついてく」 「………」 「ていうか、ついてくことくらいしか、出来ないからさ」 本当に、星みたいだよ、竹巳は。 いくら夢みたって、掴んで自分のものにするなんて、絶対にできないんだ。 だけど、アポロが月に到着したときみたいに、 近づいて距離を縮めることなら、いくらでも出来るんだ。 「…ありがとう、」 「どうしたしましてっ!」 にへっと笑って、手を差し伸べる。 無力でなにもできないけど、 そばに居ることくらいはできる証として。 その手をそっと握り返してくれたタクに、 俺はただひとことを言った。 「俺らの部屋に、帰ろっか」 道ゆく人々に別れをつげて。 ねえ、近くて遠くて、 温かく輝く君と。
こわくて読み返せない… じゃあアップすんなよ!って、ごめんなさい。 やっぱりあらすじと全然違う。 ぐは…orz (c)愛渚 雛古 2005.09.07